雨水流出量の増大により、流下能力不足となっている下水道管渠の再構築
1.降雨・浸水被害状況
近年、住宅地などの開発による市街化に伴い、保水機能を有する田や緑地等が失われ、雨水流出量が増大してきています。さらに、時間雨量が50mmを上回る豪雨が全国的に増加しており、地球温暖化に伴う気候変動等の影響によって雨の降り方が「局地化」、「集中化」、「激甚化」する傾向にあります。
このような状況から、既存施設の流下能力を上回る降雨による大規模な都市型の浸水被害(内水氾濫)も頻発しています。加えて、地下鉄や地下街など都市の地下空間利用が進み、そのような空間に雨水が流入することによる人的被害の危険性も増大している状況にあります。
浸水被害状況
2.下水道による浸水対策
ハード・ソフト両面から選択と集中の考え方のもと、計画的な取組を推進していく必要があります。
3.下水道管渠の再構築
浸水原因・要因別、浸水箇所(上流域・下流域等)別に改修(増径)、増補管、ループ化・ネットワーク化、流出抑制施設(貯留・浸透)等の対策手法については、現場状況に応じてその組合せも含めた対策案による浸水被害軽減効果を整理することが重要です。
増補管・バイパス管のイメージ
大口径・大深度シールド工法の下水道増補幹線の設計
都市部では、電気、通信、ガス、上下水道といったライフラインの地下化、都市活動を支える鉄道、道路、河川の地下空間の活用が進んでいます。これらは公共用地の地表面に近い空間から活用され始めました。都市の発達とともに地下空間は地下埋設物やトンネル、杭基礎等の構造物が輻輳し、地下空間の活用はより深い場所へと広がりを見せています。
一方で、近年、いわゆるゲリラ豪雨と呼ばれる局地的な大雨等により全国各地で浸水被害が多発しており、下水道事業においては、気候変動を踏まえた都市浸水対策施設の建設が進められています。
都市部で施工される大口径都市浸水対策を目的とした下水道管の多くはシールド工法で築造されており、近年の地下利用状況に連動して大深度で計画される事が増えてきています。下水道管渠工事は、一般的にその大部分が市街地道路内での施工となるため、道路交通や周辺環境などへの影響、あるいは輻輳した地下埋設物道路橋基礎との近接施工など、厳しい制約条件の中で行なわれています。
そのため、設計では、施工段階における計画や設計の変更が困難であり、設計に求められる要求事項は多くなっております。工事や維持管理といった、設計後を見据えた提案が重要となっております。
【シールド工法で留意すべき設計課題】
1.経済性(建設コスト)
設計者は各種基準書や発注者に求められる仕様(要求事項)を満足した上で経済性に配慮した設計を行うに必要があります。大口径・大深度になるほど、容易に改築・修正工事が実施できない事から、リスクを回避した安全側(過大)の設計となりやすい傾向にありますが、安全性と経済性はトレードオフの関係にあることに留意し仕様を決定する必要があります。
一般的にシールド工事では、覆工セグメントが建設コストの大部分を占めています。そのため、設計者は過大設計とならないよう、内水圧・地盤条件・耐震条件の等の設計条件を発注者に確認し、発注者が求める仕様を理解した上でセグメントの比較検討を行うことが重要となります。
2.施工性(施工上のリスク)
シールド工事は、目視確認することのできない地山に対して設計を行います。そのため、ボーリング等の地質調査を実施します。しかし、すべての地質情報を把握する事が困難であるため、設計者が地質を想定し設計計画を立案します。
設計者は過去の施工事例を参考にしながら、地質調査で得られた情報を元に施工上のリスクを考慮した設計を実施する必要があります。
3.維持管理性(施設の安定的な運用)
地下埋設物である下水道は、暗所で有害なガスが発生するリスクがある施設であるため、地上構造物と比較して維持管理方法が限られてきます。そのため、維持管理部門と維持管理の頻度及び方法を確認し、維持管理の方針を決定する必要があります。維持管理のための換気・照明・昇降施設の検討も重要となっております。また、DXの推進により様々な新技術が開発されており、最新の動向に配慮した提案が重要となっております。
流域下水道枚岡河内中央増補幹線管路施設実施設計
【業務の背景】
近年の気候変動の影響で、計画を上回る降雨による浸水被害が多く発生しています。寝屋川流域では、その浸水対策として河川と下水道が一体となって治水対策を進めています。豪雨が発生した場合、内水を河川へ過剰に放流すると河川氾濫の危険があることから内水を一時的に貯留する必要があります。今回の業務では、現況道路下に内径5mの管渠を3.4kmに渡り埋設することによって55,700tの貯留施設を構築し治水対策としています。
【業務内容】
貯留施設(シールド工法)内径φ5.0m L=3.36km
今回の業務では、すでに整備されている枚岡河内中央幹線の流下能力を超えた雨水を、浸水が発生する前に分水人孔から取水して、新設する枚岡河内中央増補幹線に貯留を行う計画です。新設する貯留施設はシールド工法と呼ばれる工法を採用しています。シールド工法はシールドマシンと呼ばれる機械を使ってトンネルを掘り進んでいく工法です。掘り進んでいくうちに掘った部分が崩れてこないようにセグメントと呼ばれる部材をリング状に組み立てトンネルを構築します。このセグメントで構築されたトンネルを貯留施設として機能させ、雨水を一時的に貯留し浸水対策を行いました。
計画概略図
セグメント組立後
セグメント組立前
北畠幹線下水管渠実施設計
阿倍野区北畠地区で発生している集中豪雨浸水被害の抜本的対策として整備する下水管渠(増補管)の実施設計(詳細設計)を行うものであります。
浸水被害発生区域の上流側で雨水を分水することにより、下流域の浸水発生区域の浸水被害を軽減することを目的とするものとなります。
石神井川流域合流改善貯留施設実施設計
【業務の目的】
東京都石神井川の雨天時汚濁負荷軽減対策としての合流改善貯留管の実施設計です。貯留量は、最も汚濁負荷量の大きい初期雨水「単位面積換算量5㎜」を対象とし、流域全体(約87ha)から約4,730m3を貯留します。この貯留量を雨水貯留池と貯留管の両施設で負担します。北区からの要望から、早期に合流改善効果を発現するため、雨水貯留池に先行して貯留管を布設し、暫定供用します。
図1. シールド平面及び接続概要図
【業務内容】(図1参照)
- 施工方法:泥土圧式シールド工法
- 管径・延長:二次覆工一体型セグメント(外径φ2,850㎜、仕上り内径φ2,400㎜)、約800m
- 既設西ヶ原主要枝線からの分水方法:シールド坑内からの地中接続推進工法による分水
- 晴天時ポンプ施設:流末への仮壁設置による暫定ポンプ施設の設置
- 近接施工施設:JR東北・上越新幹線・京浜東北線・東北本線、首都高速中央環状線等
【技術的特徴】
この業務では、既設西ヶ原主要枝線(以下「既設管」と略す)から分水するための接続管布設方法の検討が最大の課題でした。既設管は、「RCセグメント(仕上り内径φ4,500㎜)・晴天時3q汚水管との背割り構造」となっています。特に、地中接続施工においては、セグメント開口時の応力再配分によって、予想しえないセグメント挙動が懸念されます。過去には、この挙動予測を見誤り、坑内への地下水流入による出水事故も発生しています。このため、正確に開口時のセグメント挙動を把握することはもちろんのこと、狭いシールド坑内での作業員のヒューマンエラー等も考慮することが重要となります。いわゆるフールプルーフ対策を考慮した施工方法の提案です。これにより、安全・確実な施工環境を確保することができます。この点を考慮して、下記の施工方法を提案しました。
- 接続管口径:開口補強不要な「既設管」セグメント外径の20%未満(φ800㎜)としたこと。
- 推進工法:RCセグメントを推進自体で削孔でき、接続管周辺の地盤改良に加えて、密閉構造を有した一重ケーシング工法を採用したこと(図2・手順1参照)。
- 仮蓋設置:接続管流入・流出口に仮蓋を設置したこと(図2・手順3参照)。
図2. 地中接続工推進手順図
最近の都内シールド施工は、大深度、地中接続、重要構造物との近接施工等、厳しい施工環境となっています。このため、「絶対に事故が発生しない」施工方法や手順等を発注者・受注者双方が一体となって模索・追及することが重要となっています。今回の地中接続方法は、東京都内での事例もなく、新たな施工手順を提案することができました。当社では、こうした難条件下でのシールド工法の設計に積極的に取り組み、実績を積み重ねています。
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